第293章 故人が来たようだ2

井上菜々は手元の資料を置き、首を振った。「ただ彼女が以前知っていた人に少し似ているなと思っただけです。」

井上菜々はそれ以上何も言わなかったが、もし林浅香が戻ってきたら、お兄ちゃんはきっと喜ぶだろうと思った。

彼女は今でも忘れていない、6年前に彼らが別れた時、古田静雄がバーでの一幕を。

いつも静かで内向的だった彼が、何人もの人を傷つけたのだ。

その後警察が来ると、彼はまるで空中に消えたかのようだった。

この数年間、井上菜々はずっと古田静雄の行方を探ろうとしていたが、音沙汰がなかった。

彼がどこに行ったのか、林浅香を探しに行ったのかどうかもわからない。

彼女はただ彼が無事で、幸せに過ごしていることを願っているだけだった。

鈴木音夢もそれ以上何も言わず、彼女に出て準備するよう言った。

なぜか、井上菜々の表情を見ていると、彼女は写真の人物を知っているようだった。

この人物は、古田静雄の初恋の女性、林浅香なのだろうか?

一方、豊田景明は豊田祐助を書斎に呼び入れた。

昨夜あの玉の飾りを競り落としてから、父はほとんど口を開いていなかった。

ただ、豊田祐助は確信していた、その玉の飾りには何か秘密が隠されているに違いないと。

「祐助、調査してくれ。この玉の飾りが一体誰の手から来たのか、必ず詳しく調べるんだ。」

豊田祐助は玉の飾りを手に取って見ると、その上に細かく「豊」という字が刻まれているのを発見した。

「お父さん、この玉の飾りは一体どういう由来があるんですか?」

豊田景明はタバコを一服吸い、静かに言った。「この玉の飾りは豊田家の家宝だ。かつて私はある人に贈った。この玉の飾りがどこから来たのかを突き止めれば、おそらく私が探している人を見つけられるだろう。」

父が家宝を贈るほどの人物、この人の身分は、きっと父と何か特別な関係があるのだろう。

豊田祐助はうなずいた。「わかりました、今すぐ調査します。」

実際、豊田祐助は豊田景明の実の息子ではなく、豊田家の養子だった。

当時、豊田景明が北海道を離れた後、再び敵に追われ暗殺されそうになった。

その時、陽川家は河津市でかなりの勢力を持っており、陽川恵美は彼のために銃弾を受け、子宮を傷つけ、生涯子供を産めなくなった。