第311章 過去、あの人たち6

ただ、鈴木世介は思いもしなかった。いつか卓田礼奈の番号に電話をかけると、電源が切れているとは。

彼の潜在意識の中では、自分が振り向きさえすれば、彼女を見つけることができるような気がしていた。

電話の向こうから聞こえる声:こんにちは、お掛けになった電話の電源が切れています。後ほどおかけ直しください。

この瞬間、鈴木世介の心は、理由もなく慌てた。

数分後、彼はもう一度電話をかけたが、やはり電源が切れていた。

卓田礼奈はベッドにうつ伏せになっていたが、全く眠気はなかった。

今日は学校にも病院にも行かず、午後はほとんど部屋に隠れて寝ていた。

母親さえも、何かあったのかと彼女に尋ねた。

しかし、卓田礼奈はどうやって言い出せばいいのだろうか?

実際、よく考えてみれば、最初から最後まで、本当に自分の一方的な思い込みだけだった。

鈴木世介も言っていた、最初に彼女を救ったとき、彼女に対して余計な考えはなかったと。

道端の猫や犬でも、同じように助けただろう。

それなのに、彼女の心の中では、鈴木世介が初めて現れた時から、まるで彼女の神様のような少年に変わっていた。

二年間、古田静美が現れる前まで、卓田礼奈はまだ大志を抱いて頑張っていた。

彼女は自分が頑張り続ければ、鈴木世介の心が石でも、自分の温もりで温かくなると思っていた。

でも、そうではなかった。

彼女は忘れられなかった、空港で鈴木世介が他の女の子の前で、彼女は彼のガールフレンドではないと言ったことを。

彼女もそれが事実だと知っていた。鈴木世介は一度も正式に彼女をガールフレンドだと認めたことはなかった。

しかし、なぜか彼女の心は、その瞬間、まるで鉄線でぎゅっと締め付けられているようだった。

古田静美が公平な競争をしようと言い、彼女も同意した。

結局、鈴木世介は自分だけのものではなく、誰もが幸せを追求する権利がある。

ただ、あの日、鈴木世介が彼女のためにパソコンを修理している間、古田静美が彼の隣に座り、彼に食べ物を食べさせているのを見て。

彼女は古田静美のように彼に近づくことができなかった。

鈴木世介は古田静美が食べさせるものを喜んで食べるが、もし自分だったら、おそらくまた厚かましい、恥知らず、女の子らしくないと言われるだろう。