井上菜々はようやく我に返り、鈴木音夢を見て少し緊張した様子で「鈴木社長、すみません、あなた...今何とおっしゃいましたか?」
鈴木音夢は彼女の肩を軽くたたいて「大丈夫?」
井上菜々は心を落ち着かせ、頭を振った。「鈴木社長、大丈夫です。さっき何とおっしゃいましたか?」
「菜々、何か心配事でもあるの?」
「鈴木社長、私...大丈夫です、すみません」
「リンダの資料を、このメールアドレスに送って」
井上菜々は急いでメールアドレスをメモした。彼女の心臓はまだどきどきしていた。
これだけ長い年月が経って、ようやくお兄ちゃんの消息が分かったのだ。興奮しないわけがない。
井上菜々は自分の席に戻り、そのメールアドレスを見つめた。それが彼女とお兄ちゃんを繋ぐ唯一の手段かもしれないと分かっていた。
彼女は興奮した気持ちを抑えながら、急いでリンダの全ての資料を送信した。
もしかしたら彼はずっと林浅香を探していたのかもしれない。今彼女の居場所が分かれば、きっと喜ぶだろう。
彼が喜べば、彼女も嬉しい。
メールを送信した後も、井上菜々はそのメールアドレスをじっと見つめ続けた。
相手は自分の存在すら知らないかもしれないのに。それに、これだけ長い年月が経って、今の自分は子供の頃とは違う姿になっている。
井上菜々は顎に手を当て、リンダが林浅香なのかどうか考えていた。
彼女の気持ちは複雑だった。鈴木音夢はお兄ちゃんを知っているようだが、彼に再会できるチャンスはあるのだろうか?
でも、たとえ本当に再会できたとしても、彼女はきっと以前のように、ただ暗闇の中で静かに見守るだけだろう。
お兄ちゃんはあんなに優秀な人だから、林浅香のような優秀な女性だけが、彼の隣に立つ資格がある。
古田静雄はメールを受け取った後、写真をじっくりと見た。この人が林浅香でなければ誰だというのか?
たとえメイクが変わり、以前とは違う服を着ていても。
しかし心の中の声が告げていた、この人は林浅香だと。
なぜ彼女は自分が海外で育ったと言ったのか?この数年間、彼女は一体何を経験してきたのだろう?
古田静雄はリンダの素性を調べ始めたが、調べた情報が資料の内容と全く同じだということが分かった。
彼は眉をひそめた。何か問題があるのだろうか?