卓田越彦は敷田さんがそう言うのを聞いて、うなずき、1階の主寝室に入った。
彼はそっとドアを開け、杏子が林柳美の腕を枕にして、ぐっすりと眠っているのを見た。
卓田越彦は時間を確認した。今はもう5時過ぎで、普段の昼寝なら、杏子はこんなに長く寝ないはずだ。
しかし、昨夜彼女が悪夢を見たことを思い出し、卓田越彦は考えた。今、彼女が眠れるなら、ゆっくり休ませてあげるのもいいだろう。
鈴木音夢に事件があって以来、杏子の睡眠の質は以前より悪くなっていた。
普段は一人で寝ても何の問題もなかったのに。
でも最近は、夜に彼が付き添わないと、ほとんど悪夢を見てしまう。
あんなにひどく泣いている姿を思うと、卓田越彦は胸が痛んだ。
しかも、杏子の見る悪夢は、音夢に関係しているのだ。
彼は時々恐れていた。杏子の夢が現実になり、チビに何かあるのではないかと。
彼は静かにドアを閉め、振り返って敷田さんを見た。「彼女たちが起きなければ、起こさないでください。夕食の時間になったら呼んでください」
「はい、若旦那様」
卓田越彦は書類カバンを持って階段を上がり、部屋のドアを開けたが、鈴木音夢がベッドに横たわっているのは見えなかった。
彼は眉をひそめた。彼女はどこに行ったのだろう?ちゃんと休むように言ったはずなのに。
まだ体が完全に回復していないのに、本当に言うことを聞かないな!
もしかしてトイレにいるのだろうか?
卓田越彦は部屋中を探したが、彼女の姿は見つからなかった。
彼は少し考えて、彼女は杏子の部屋にいるだろうと思った。普段、暇なときは杏子の部屋を整理するのが好きだったから。
しかし、杏子の部屋のドアを開けても、静まり返っていて、人影一つなかった。
これで卓田越彦の心はさらに疑問に包まれた。
昼にチビに電話したとき、彼女はちゃんと約束したはずなのに。
体がまだ良くないのに、勝手に出歩くなんて、見つけたら絶対に目に物を見せてやる。
卓田越彦は大股で階段を下り、敷田さんを呼んだ。「若奥様は出かけましたか?」
敷田さんは首を振った。「若旦那様、若奥様は階下に降りていませんよ。3時過ぎに、若奥様と柳田奥さんがおやつを食べた後、少し眠くなったと言って上に休みに行きました」
「若奥様が出かけていないことは確かですか?」