鈴木世介は彼女が泣き出すのを見て、急いでベッドから起き上がった。「泣かないで、君のせいじゃない、これは私の持病なんだ。いい子だね、君が泣くと、私はもっと辛くなるよ」
卓田礼奈は鼻をすすった。今は泣いている場合ではない。「鈴木世介、病院に行きましょうよ?」
「必要ないよ、引き出しの薬を持ってきてくれれば、飲めばすぐ良くなるから。病院には行きたくないんだ」
卓田礼奈はさらに説得を試みたが、彼はまるで牛のように頑固で、行かないと言ったら行かない。
彼女は仕方なく引き出しに薬を取りに行った。中にはいくつかの胃薬があった。
彼女は本当に良い彼女ではなかった。彼氏が胃病を持っていることさえ知らなかったのだ。
彼女は薬を手に取って見てみた。これらの薬は胃への刺激が強く、長期間摂取すると体にさらに悪影響を及ぼす。
彼が病院に行くのを拒むなら、彼女は病院から最良の薬を届けてもらうことができる。
卓田礼奈は急いで携帯電話を取り出し、卓田病院の当直室に電話をかけた。
当直室の医師は、真夜中に卓田次女からの電話を受け、驚いた。
若奥様に何かあったのだろうか?しかし若奥様は静養のため帰宅し、付き添いの医師も連れて行ったはずだ。
卓田礼奈は大まかな状況を説明した。風邪で熱が出ているので、自分で注射を打ちに行ってもいいと。
この間、病院で実習していたので、注射などは卓田礼奈はとっくに習得していた。
彼女は電話を切り、キッチンに入り、冷蔵庫を開けて氷嚢を取り出した。
彼女はタオルで包み、彼の額に当てた。「鈴木世介、あなたのその胃薬はよくないわ。病院にすぐに送ってもらうように言ったから、もう少し我慢して。あなたったら、胃病があるのに、私に言わないなんて」
鈴木世介は彼女の心配そうな顔を見て、手を伸ばして彼女の頭を撫でた。「大丈夫だよ、心配しないで」
卓田礼奈は冷たく鼻を鳴らした。「全部畑野潤矢のせいよ、あんなに手荒く。彼はまだうちの白ワインが欲しいって言ってたけど、もう送らないわ」
鈴木世介は具合が悪かったが、卓田礼奈の表情を見ると、なぜか随分と楽になった気がした。
彼はうなずいた。「そうだね、送らないで、これからは彼とはあまり付き合わないようにしよう」