第65章 福井社長も、できないことがある

安藤凪は呆然と福井斗真の背中を見つめていた。あの堂々たる福井社長が彼女のために4時間も車を運転して飴細工を買いに行くなんて?

実際、福井斗真は行っただけでなく、1時間も早く戻ってきたのだった。

「どれが食べたいか分からなかったから、全部買ってきた」

福井斗真は7、8本もの飴細工を取り出し、当然のように言った。「店主の電話番号も聞いておいた。食べたくなったら高橋鐘一に言って、家に来てもらって作らせればいい」

安藤凪は驚いて目を丸くした。

これが金持ちの生活なの?!

「どれが食べたい?」

福井斗真の深い瞳が安藤凪を見つめていた。

安藤凪は気まずそうに笑い、彼の好意を無駄にするのは申し訳ないと思い、適当にイチゴのものを指さした。

冷たくてパリパリのキャンディの殻に包まれた果汁たっぷりのイチゴ。一口かじると酸味と甘さが広がり、想像以上に美味しかった。

目を輝かせ、安藤凪はすぐにもう一口かじった。「美味しい」

福井斗真の瞳の奥に優しさが広がり、静かに彼女を見つめていた。

しかし安藤凪はまだつわりに悩まされていたため、どんなに美味しくても数口食べただけで眠くなってきた。

福井斗真は気遣い深く彼女を抱えて2階の寝室に戻り、彼女が眠りについてから書斎に戻って仕事を始めた。

安藤凪が目を覚ましたとき、外はすでに暗くなっていた。

これは彼女がここ半月で最も心地よく眠れた一回だった。安藤凪の元々青白かった顔色にも少し血色が戻っていた。彼女が気持ちよく伸びをしたとき、ギシッという音とともに、寝室のドアが外から開いた。

「起きたか?」

福井斗真は洗って切りそろえたばかりのフルーツの盛り合わせを手に持って入ってきた。

「まずはフルーツを食べて、食事はすぐできる」

彼は何気なく安藤凪の口にミニトマトを一つ入れた。酸味と甘みのあるミニトマトが安藤凪の味覚を刺激し、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。

福井斗真は安藤凪が喜んで食べるのを見て、もう一つ与えた。

安藤凪はまるで満足した猫のようだった。

3つ目を食べた後、安藤凪は突然福井斗真に買ってきてもらった飴細工を思い出した。彼女は口をいっぱいにしたまま、不明瞭な声で尋ねた。「わたしの飴ごうりは?」

まだ食べたかった。