一通り見終わったが、何も見つからなかった。
安藤凪は椅子に寄りかかり、泣き笑いしながら考えた。自分は本当に取り憑かれたようだ。安藤羽音のあの意味不明な言葉のせいで、母が自分に大金を残したと本気で思い込んでいたなんて。
彼女は長いため息をつき、姿勢を正して手紙の一つを取り上げた。ちょうど母親が安藤国彦と知り合い、最終的に一緒になった場面について書かれているところだった。手紙の中で、母は生活への期待や結婚への憧れをすべて率直に表現していた。
手紙によると、安藤国彦は最初、彼女と結婚した頃はこんな人ではなかったという。彼は優しく、外出から帰る時はどんなに遅くても母に何か持ち帰っていた。ちょっとした小物でも母は半日中喜んでいたという。
二人は確かに苦労を共にしたのに、幸せを分かち合うことはできなかった。
安藤凪の心は複雑な気持ちでいっぱいになった。
これらの手紙は、母と安藤国彦の間で起きた出来事を時系列順に語っているようだった。後半になると、母は安藤国彦のクズ男の本性を見抜き、彼が不倫している現場を押さえただけでなく、安藤国彦が得意げに「たった二、三言の甘い言葉で傅家のお嬢様を手に入れた」と言い、傅娟のことを愚かだと言っているのを聞いたと書かれていた。
その時点で時間軸が完全に明らかになった。
かつての偶然の出会いは、安藤国彦の周到な計算だったのだ。
あの甘い言葉は、毒を含んだ蜜にすぎなかった。彼女をそこに溺れさせた後、毒は全身に広がっていった。
彼はただの貧しい若者で、中流階級の傅家のお嬢様に目をつけ、一気に這い上がってヒモ男になったのだ。
手紙から、安藤凪は祖父母がまだ亡くなる前は、安藤国彦はまだ表面上の取り繕いを維持していたことを知った。結局、安藤家の資金は祖父母が傅娟の名義で投資したものだったので、彼は顔向けを失うことはできなかった。しかし、祖父母が亡くなった後、彼は本性を現した。
母は手紙の最後にこう書いていた。
「私がした最も後悔していることは、あなたの祖父母の言うことを聞かず、人間の皮を被った狼と結婚したことです。でもこれは私が感謝していることでもあります。そうでなければ、あなた、私の愛しい娘はいなかったでしょう。これからは目を光らせて、時間があれば私の実家、あなたの祖父母の家に行ってみてください。ママはもう戻れません。」