第112章 甘ったるい

一方、オフィスにいる福井斗真は、そんなに楽しくはなかった。彼は目の前に山積みになった仕事を見て、顔色は暗く沈み、周囲に絶え間なく冷気を放っていた。傍らの高橋鐘一は言動に細心の注意を払い、大きな息すら吐けないほどで、今の不機嫌な福井社長が矛先を自分に向けないかと恐れていた。

彼がどれだけ存在感を消そうとしても、オフィスの中で福井斗真以外の唯一の生きている人間として、結局は福井社長に正確に名指しされた。

福井斗真はパンと音を立てて手元の書類を閉じた。

彼は顔を上げて高橋鐘一を見つめ、しばらくしてから尋ねた。「女というのはみんなべたべたしているものなのか?夜寝るときはひそひそ話をし、昼間も一日中一緒にいて、いったいどれだけ話すことがあるんだ」

高橋鐘一は福井社長の不機嫌が仕事のせいだと思っていたが、まさかこんなことが原因だとは。彼は一瞬戸惑った。福井社長がこの「女」が誰なのか直接言わなくても、社長をこれほど心配させるのは、奥様以外にいないだろう。