第166章 下水道のネズミ

彼は最初の瞬間から安藤凪を腕の中に守っていた。

しかし、守りきれていない部分があるのではないかと恐れ、また安藤凪が驚いたことで、お腹の赤ちゃんに何か問題が起きるのではないかと心配していた。

安藤凪は首を振り、泣き声を混じらせながら医者に先に福井斗真の診察をするよう頼んだ。

「私は大丈夫だから、先に診てもらって。あなたの腕が...」

「いいから、早く診察を終わらせて。そうすれば私も安心して診てもらえるから」福井斗真の腕は、まるで痛みを全く感じていないかのように、静かに安藤凪を慰めた。

安藤凪は鼻をすすり、福井斗真が決めたことはなかなか変えられないことを知っていたので、今はさっさと診察を終わらせて彼の時間を節約した方がいいと思い、涙を拭いて医者に診察してもらった。すぐに医者は安藤凪に問題がないことを確認し、福井斗真はようやく安堵の息をついて、診察に協力した。

医者はまず福井斗真の傷口を清水で洗い流し、消毒した後、軟膏を一本渡して一日三回塗るように注意した。安藤凪は一日三回ということをしっかりと心に留めたが、福井斗真は別のことを気にしていた。

「先生、この軟膏の匂いは妊婦に何か影響はありませんか?」

安藤凪は福井斗真がこんな時でも自分のことを考えていることに驚いた。医者は頭を振って影響はないと言い、福井斗真はようやくその軟膏を受け取った。まるで先ほど医者が影響があると言ったら、この軟膏を使わないつもりだったかのように。

安藤凪は福井斗真の傷口を見て、心から自責の念に駆られた。自分が驚いて動けなくなったせいで、福井斗真が自分を守るために硫酸を浴びてしまったのだ。安藤羽音の標的も自分が原因だった。

帰り道で、福井斗真は安藤凪の心の中を読み取った。

彼は優しく安藤凪の鼻をつまみ、慰めるように言った。「変なことを考えないで。今回君が無事で良かった。もし何かあったら、私は本当に狂ってしまっていたかもしれない。君を守ることは、私自身を守ることなんだ。だから自分を責めないでくれる?」

安藤凪は顔を上げて彼の目に宿る優しさを見て、頷いた。

……