第107章 家

安藤凪は後ろによろめいて二歩下がった。

彼女が顔を上げると、今入ってきた二人が誰なのかようやく分かった。

福井佳子と山田嵐の二人だった。ただし……いつも十指に春の水も触れさせず、華やかな服装をしていた山田嵐が、今はしわくちゃの黒い花柄のシフォンドレスを着ていた。福井佳子の様子も良くなく、彼女の髪は手入れをしていないのか雑草のようになっていて、一週間ごとに変えていたネイルも今は半分ほど伸びたままで、やり直した様子もなかった。

この二ヶ月間、一体何があったのだろう。

しかし彼女が少し意外に思ったのは、この二人がここを見つけられたことだった。福井斗真が失脚し、福井グループの社長の座を譲って以来、この二人は蒸発したかのように姿を消していた。福井斗真を探すどころか、一本の電話もかけてこなかったのだ。

安藤凪はさっとドアを閉め、眉をひそめながら、自分を他人とも思わず入るなり勝手にソファに座った二人を見た。

「どうしてここに来たの?」

福井佳子は首を突き出し、安藤凪を軽蔑した目で見た。

「ここは私の兄の家よ。私が来たいときに来るの。あなたに何か言われる筋合いはないわ。それにあなたは本当に空気が読めないわね。私とママが来たのに、ぼんやり立ってるだけで、私たちに水一杯出す気もないなんて。兄さんはあなたと結婚して本当に八代の不幸を背負ったわね」

山田嵐も年長者の威厳を保ったまま。

彼女は安藤凪を横目で見て、視線は彼女が着ているDiorの最新春コレクションのロングドレスに落ち、目の奥に貪欲な光が走った。彼女は冷たく鼻を鳴らし、

「あなたが着ている服、また息子のお金をたくさん使ったんでしょう。今のあなたは本当に礼儀知らずね。最初どうやって息子と結婚したか忘れないで。これからはおとなしく家にいて主婦をやりなさい。余計なところに出て恥をさらさないで」

二人は入るなり文句を言い始めた。

安藤凪は思わず笑ってしまった。

彼女は腕を組み、二人を上から下まで見て、福井佳子と山田嵐がどこからそんな厚かましさを持ってきたのか理解できなかった。入るなり自分に指図するなんて。彼女の視線に二人は不快感を示した。

福井佳子が口を開いて罵ろうとしたとき、安藤凪はゆっくりと口を開いた。