第182章 負傷

彼女たちはようやく気づいた。この中年男性が突如として彼女たちの後ろに現れていたのだ。安藤凪と高橋雅子の顔色が同時に変わった。二人が後退できなくなった瞬間、ナイフが二人に向かって突き刺さってきた。

その時、高橋鐘一が何も顧みずに飛び出し、背中でナイフを受け止めた。安藤凪の耳元には、ナイフが肉に刺さる音だけが残った。一滴の赤い血が、ナイフによって引き出され、彼女の顔に落ちた。彼女は全身が凍りついたかのように、呆然と目の前で自分と高橋雅子を守っている高橋鐘一を見つめていた。

中年男性は殺気に取り憑かれたかのように、手を上げてまたナイフで刺そうとした。安藤凪はようやく我に返り、顔から血の気が引いた高橋鐘一を見て、体内から突然かつてない力が湧き上がってきた。彼女は足を上げ、力いっぱい男の股間を蹴り上げた。