第390章 見舞い

安藤凪が自分がいれば、福井斗真の仕事の処理速度が2倍になるのかと考えていた。しかし、福井斗真がオフィスでいつも様々な理由をつけて甘えてくることを思い出し、安藤凪は顔を赤らめた。

彼の仕事の効率が上がるかどうかはわからないが、むしろ下がる可能性の方が高い。安藤凪は軽く咳払いをして了解したことを示し、高橋鐘一と別れた後、福井斗真のオフィスへ向かった。

彼女は福井斗真のオフィスのドアの前に立ってノックし、中から低い声が聞こえてきた。安藤凪はドアを開けて入ると、福井斗真が書類を処理しているところだった。彼女は何も言わず、静かに脇のソファに座った。

福井斗真は高橋鐘一が入ってきたと思っていたが、しばらく誰も話さないので眉をひそめて顔を上げた。顔を上げるとソファに寄りかかって雑誌を読んでいる安藤凪が目に入り、福井斗真はさっと立ち上がり、驚きと喜びの表情で安藤凪を見た。

「凪ちゃん、上がってきたのになぜ声をかけなかったの?」

「あなたが仕事中だったから、黙っていたの」安藤凪は福井斗真がようやく自分に気づいたのを見て、手に持っていた雑誌をテーブルに置いた。すると福井斗真は手元の仕事を置いて彼女の方へ歩いてきた。

安藤凪は心の中で疑問符がいっぱいだった。

福井斗真は自分のせいで注意が散漫になって、書類処理の効率が上がるのだろうか?高橋鐘一はきっと自分をだましていたのだろう。

彼女は数歩で自分の隣に座り込んだ福井斗真を見て、結局自分がここに来て彼と一緒に仕事をするという考えを諦めた。

二人はとても近くに座り、二人の脚の間には薄い布地が二枚あるだけで、安藤凪は福井斗真の体温さえ感じることができた。彼女は心の中で頭を振り、雑念を払い、本題に入った。

「斗真、Sグループの人が会社に来たって聞いたけど、会わなかったのはなぜ?」

Sグループの話題が出ると、福井斗真の黒い瞳に嫌悪の色が浮かんだ。

「会わないわけではない。彼らにロビーで1時間待ってもらっただけだ。昨日、彼らは契約の話し合いに1時間遅れてきたからね。私はただその1時間を返してもらっただけだ。しかし、Sグループの担当者は少しも忍耐がなかった」

「彼らは待たずに帰ってしまったの?」