第486章 羨望

「もう彼氏がいるの?」鈴木雪乃の目に一瞬疑いの色が浮かんだ。彼女の視線は福井斗真と高橋雅子の間を行ったり来たりし、二人の関係を計っているようだった。その場にいる誰もが抜け目なく、彼女が何を考えているか一目で分かった。

安藤凪はこのとき立ち上がり、福井斗真に向かって言った。

「もう遅くなってきたわ。十分休憩したし、早く山に登りましょう。でないと日の出が見られなくなるわ。今日は早起きしたのに損するわよ」

先ほどまで鈴木雪乃に冷たい態度を取っていた福井斗真は、安藤凪にはほぼ何でも応じる様子で、立ち上がると安藤凪のリュックサックを自分の肩に背負い、鈴木雪乃を見ることもなかった。

鈴木雪乃はようやく人違いをしたことに気づいた。彼女の視線は高橋雅子から安藤凪へと移り、安藤凪の顔を見たとき、瞳孔が急に縮み、かつてない危機感を覚えた。