第626章 偽装

安藤凪は黒いウールのコートを着た女性が学生の後ろ姿だと思い、ほっとしたのもつかの間、近づいてその女性の後ろ姿を見た瞬間、心臓がドキリとした。彼女は急いで駆け寄った。

門に着いたとき、安藤凪はようやく、鉄の門を挟んで立っているのが藤原夕子と彼女の担任の幼稚園の先生だと分かった。夕子は先生の手をつかみ、先生の後ろに身を隠すように縮こまり、自分の祖母だと名乗るこの人物を恐る恐る見ていた。

幼稚園の先生も、彼女を注意深く観察していた。

安藤凪はすぐには声を出さず、山田嵐がどんな企みを持っているのか見極めようとした。そう、このウールのコートを着た女性は他でもない、最近になって財産分与を騒ぎ立てていた山田嵐だった。

彼女は愛情深そうに装って夕子に微笑みかけた。

「夕子、私が分からないの?先日もあなたの家に行ったわ。私はあなたのおばあちゃん、お父さんのお母さんよ。今日は家が忙しくて、誰も迎えに来られなかったから、私が来たの。さあ、おばあちゃんと一緒に帰りましょう」