その場に立ち止まったままの伊藤明史は、その男の目の奥に潜む悪意をはっきりと捉えていた。
視線は彼の右手に握られたカップに落ちた。
それはタンブラーだった。
しかし、中に入っているのは水ではなかった。
秋田結に近づくとき、彼はカップの蓋を開けた。
秋田結は草場盟子と話していた。
背後から聞こえる足音、それも非常に近くに迫っていることに気づき、本能的に振り返った。
すると彼女の後ろには見知らぬ男と伊藤明史がいた。
その男は、彼女が振り返った瞬間、目に凶悪な光を放った。
「お前が秋田結か?」
「あなたは誰?」
秋田結は眉をひそめ、問い返した。
その男は手を上げるなり、カップの中の液体を彼女の顔に向かって投げかけた。
秋田結は顔色を変え、隣の草場盟子を押しのけると同時に、もう一方の腕を上げて防ごうとした……しかし後ろから駆け寄ってきた伊藤明史にぎゅっと抱きしめられた。