第077章 私があなたを抱いた時…

ベッドから降りようとして転びそうになった時。

秋田結は先ほどの妥協を死ぬほど後悔していた。

隣で、上野卓夫が低く笑いながら手を伸ばして彼女を支えようとしたが、彼女はその手を払いのけた。

彼女は強がって数秒間自分を落ち着かせてから、ゆっくりと、だるく重い両足を引きずりながらバスルームに入り、身支度を始めた。

「これからは、もっと『旦那さん』って呼んでくれよ。君のそんな素敵な声で、いつも名字と名前で呼ばれるなんてもったいない」

上野卓夫というあつかましい男が彼女の後をバスルームまでついてきた。

彼女が身支度をする横に立ち、さらに口説き文句を言い続けた。

秋田結は先ほど彼に狂いそうなほど責められた時、妥協して「旦那さん」と一度呼んだことを思い出した。

彼が本当に約束を守って自分を解放してくれると思っていたのに。