彼が以前、結ちゃんに借りがあった。今度は、すべて彼女に返すだろう。
彼女が望む自由を、伊藤明史も彼女が手に入れるのを助けるだろう。
上野卓夫の口元の得意げな表情が、少しずつ冷たさに置き換わった。
「伊藤明史、お前が俺と争いたいなら、いつでも相手になってやる。俺の女を奪おうなんて考えるなら、夢でも見てろ、その方がまだ簡単だぞ」
言い終わると、彼は保温ボックスを持って大股で病院に入っていった。
伊藤明史は薄い唇を固く閉じ、体の横に置いた両手をゆっくりと拳に握りしめた。
——
病院の病室内。
上野卓夫は秋田結とお婆さんが朝食を食べ終わるのを見守り、それから看護師を呼んでお婆さんに点滴をしてもらった。
点滴が始まったばかりのとき。
彼の携帯の着信音が鳴った。
天満健司からの電話だった。