上野卓夫の声が電波を通して届いた。「伊藤明史、そっちは何の音だ?」
通話が繋がった瞬間。
上野卓夫は白川翔の悲鳴を聞いた。
伊藤明史は冷たく白川翔を見つめながら、電話の向こうの上野卓夫に言った。「白川家の祖父と孫がここにいる。さっき、彼は私の携帯を奪おうとしていた」
彼の言葉が終わると。
電話の向こうから上野卓夫の笑い声が聞こえた。
嘲笑を含んだ笑い。
「どうした、怪我をして一人のくずも対処できないから、電話して助けを求めるのか?」
「前に言ったじゃないか、お前に任せると」
伊藤明史の口元に薄い弧を描く笑みが浮かんだが、墨のような瞳には冷たさが広がっていた。
「お前が嫌なら構わない、自分で処理するだけだ。彼らが私を訪ねてきたのは、離間を図るためだ。ちょうどいい、後で結ちゃんに電話して、このことも伝えておこう」