携帯が何度か鳴った後、伊藤明史の声が聞こえてきた。
「もしもし。」
「どこにいる?」
上野卓夫は立ち上がり、床から天井までの窓に歩み寄り、カーテンの端をめくって外を見た。
今夜は星がなく、外は真っ暗だった。
彼の瞳に映るものは、彼の瞳の色にも暗さを帯びさせた。
伊藤明史の声には冷たさと無関心さが混じっていた。「雲都への道中だ。愛さんが手首を切って自殺を図り、病院に運ばれた。知らなかったのか?」
「車で行くのか?飛行機じゃなくて?」
葉都から雲都までは、フライトがある。
車で行けば、伊藤明史は朝の5時頃に到着するだろう。
「フライト?」
伊藤明史は笑った。
笑いが目に届かない種類の笑いだった。「上野卓夫、お前は知らないのか?彼女がお前のせいで手首を切ったことを?彼女はきっと私がお前より遅く着くことを望んでいる。フライトはお前に残しておくよ。」