「確かに、さっき家に帰ったら、ちょうど母さんが結ちゃんと電話していたんだ。母さんが言うには、結ちゃんは今空港にいるって。俺が電話を代わったら……結ちゃんはあなたに会いたくないと言って、電話を切ったよ」
病院の廊下で。
上野卓夫の長身の姿が凍りついていた。
瞳の奥には、濃く溶けない寂しさが漂っていた。
廊下の向こうから、天満健司と相田東一の二人が歩いてきた。
彼の機嫌が悪いことを察し、天満健司は慎重に言った。「社長、安藤監督に電話しました。監督は三井愛と連絡が取れ次第、すぐに教えてくれると言っています」
上野卓夫は天満健司の言葉を聞いていないようだった。彼はまぶたさえ持ち上げなかった。
薄い唇は冷たい弧を描いていた。
耳元で、佐藤和俊の「秋田結はあなたに会いたくない」という言葉が、無形の針となって心臓を刺していた。