第355章 彼は掠れた声で言った、「キスしたい！」

伊藤明史の墨色の瞳に鋭い光が走った。

口角を少し引き締め、厳しい口調で、「上野社長は私が何を望んでいるか分かっているはずだ」

「知らないね」

廊下の光はそれほど明るくなかった。

上野卓夫の端正な眉間には冷淡さが漂っていた。

伊藤明史が「結ちゃんが欲しい」と言うのを聞いて。

彼は鼻で笑った。

眉を上げて鋭く言った、「伊藤明史、それが可能だと思うのか？」

「なぜ不可能だ。まさか、あの年の犯人を突き止めたくないのか？」

彼が真相を知りたくなければ、これほど長い間調査しなかっただろう。

「知りたい」

上野卓夫は冷たく傲慢に言った、「だが、結ちゃんを取引材料にするつもりはない」

「まるで深い愛情があるかのように言うな」

伊藤明史は彼に注意した、「あの時、お前は三井愛のために、結ちゃんを傷つけることを厭わなかった。上野卓夫、本当に結ちゃんが何の恨みもなくお前と一緒にいると思うのか？」