午後、上野卓夫が上野お婆さんの病室を出ると、携帯の着信音が鳴った。
鈴木お爺さんからの電話だと分かり、彼の瞳に一瞬の驚きが走った。長い指で通話ボタンを押す。
薄い唇から礼儀正しく「鈴木お爺さん」という言葉が漏れた。
鈴木お爺さんの豊かな声が伝わってきた。「卓夫、今忙しいかい?」
「特に忙しくありません。何かありましたか?」
「実はね、亜弥の仕事を辞めさせたいと思ってね。」
「お爺さん。」
電話の向こうから、突然鈴木亜弥の信じられないという声が聞こえた。
続いて、鈴木お爺さんが言った。「卓夫、後でまた電話するよ。先に用事を済ませてくれ。」
そして電話を切った。
上野卓夫は切れた通話履歴を見つめた。
漆黒の瞳に思索の色が過ぎる。
2分後、彼は秋田鉄平の病室に到着した。
秋田鉄平は半分上げられたベッドの頭に寄りかかって本を読んでいたが、彼が入ってくるのを見ると本を閉じた。