第373章 動かないで、抱かせて

秋田結は手を上げて太陽穴を押さえ、無駄な推測はしないことにした。

立ち上がってトイレに行き、戻ってきた。

携帯の着信音がまた鳴った。

見知らぬ番号からの着信だった。

彼女の澄んだ瞳に一瞬の驚きが過ぎり、白い指で通話ボタンを押し、淡々と「もしもし」と声を出した。

電話からは油っぽい男の声が聞こえてきた。「秋田結さんですか?」

その声を聞いた秋田結は眉間にしわを寄せた。

「はい、そうですが、どちら様ですか?」

彼女の声は先ほどよりも冷たさを増していた。

返ってきたのは、自分では爽やかだと思っている二度の笑い声だったが、実際には先ほどと同じく油っぽかった。

聞いていて不快だった。

「白井高志です。これから撮影する新ドラマ『20代の星の光』の音声ドラマに秋田さんを招待したいと思っています。秋田さんが参加すれば、このドラマは間違いなく来年最も話題になる作品になるでしょう。」