「ごめんね、私の宝物。パパが遅れてしまった。」
「うぅ、パパのせいじゃないよ。」
「じゃあ、知心はちょっとだけ泣いて、それから泣かないでいられる?」
上野卓夫は知心を少し引き離し、心配そうな顔で彼女の幼い顔を見つめた。
彼女は涙目で唇を噛んでいたが、その頬には彼を驚かせるような強さが見えた。
「知心はもう泣かないよ、知心は怖くなんかないもん。」
彼女の声はまだ詰まっていた。
しかし涙を浮かべた瞳には、もう恐れの色はなかった。
彼女は数メートル先にいる谷口紫を見上げて、「パパ、あの人がまだママをいじめて、ママを悪く言ってるの。パパはママを守ってくれる?」
上野卓夫はうなずき、深い瞳に優しい光を宿して、「もちろんだよ。」
「それなら、もう悲しくないよ。」
知心は鼻をすすりながら、また上野卓夫の首に腕を回した。