089 あなたは姉より凄いね

エレベーターの中の雰囲気が妙に甘くなり、江川淮は片桐陽向を見て、また森川萤子を見て、自分は隅に縮こまり、できるだけ自分の存在感を薄めようとした。

森川萤子はバイオリンを持っていない方の手で、片桐陽向に押されて痛くなった場所を軽く揉んだ。

しびれるような感覚。

電気が走ったような。

彼女は赤い唇を固く結び、目を上げて片桐陽向を見た。エレベーターの壁は光沢があり、鏡のようだった。

森川萤子は鏡の中の片桐陽向が彼女を見ていることに気づいた。眉目は険しく、人を食べそうな野獣のようだった。

彼女の心臓が一瞬ときめき、すぐに視線をそらしたが、今度は江川淮の好奇心と叔母のような笑みを含んだ視線と鉢合わせた。

「……」

森川萤子は足先を見つめ、光沢のある大理石の床が彼女の顔を映し出し、耳の根元が真っ赤になっていた。