次の日は月曜日、森川萤子は片桐陽向に半日の休暇を申請し、地下鉄で民政局へ向かった。
8時50分、彼女は民政局の入り口に着き、手を繋いで入っていく恋人たちが甘い笑顔で出てくるのを見ていた。
彼女は突然、4年前に久保海人と婚姻届を出した日のことを思い出した。実はその日は天気が良くなく、風が吹き雨も降っていた。彼女は一人で民政局の前で1時間待ち、久保海人はようやくのんびりと現れた。
当時、彼女は風雨で体が冷え切っていたが、久保海人を見た時はそれでも嬉しくて、硬直した笑顔を彼に向けた。
しかし久保海人は彼女を一目も見ず、まっすぐ民政局に入っていった。
写真撮影と婚姻届の提出はわずか数分で、職員が結婚証明書を彼らに手渡すと、彼はそれを見もせず、二冊とも彼女の胸に投げつけ、隣にいる職員の驚いた表情も気にせず、民政局に入って初めての言葉を発した。
「お前が欲しがったものだ。ひざまずいてでも続けられることを願うよ」
回想が終わり、森川萤子は唇を曲げ、苦い笑みを浮かべた。4年間の結婚生活で、彼女はずっとひざまずいていた。
しかし今日、彼女はついに立ち上がることができる。
森川萤子は顔を上げた。今日は晴れ渡り、太陽が雲間から顔を出し、眩しい光が彼女の側に降り注いでいた。まるで彼女の人生がこの瞬間から新たに始まることを祝福しているかのようだった。
視線の先に、久保海人がゆっくりと彼女に向かって歩いてきた。黒いスーツ姿で、凛とした姿は日差しの中でより一層格好良く見え、体にフィットした仕立ては彼の優雅さと成熟さを際立たせていた。
久保海人は彼女の前に立ち、見下ろすように彼女を見た。
森川萤子は今日、ビジネススーツを着て、薄化粧をしていた。彼女の顔色は良く、唇の端が少し上がっており、悲しみや辛さは全く見えなかった。
彼はしばらくじっと彼女を見つめ、突然嘲笑うように言った。「昨夜はお前が泣き崩れると思ったが、考えすぎだったようだな」
森川萤子はこの嫌味には反応せず、「行きましょう、予約の時間がもうすぐです」と言った。
彼女が中に向かって歩き出すと、背後から久保海人の皮肉な声が聞こえた。「そんなに急いでるのか?」