176 片桐陽向の嫉妬心

神崎家の人は好色で、神崎会長から甥や姪の世代まで、みな色事に目がない。

神崎社長は四十代半ばで、頭の中は欲望でいっぱいで、何でも口にする。

噂によると、彼は一年に何人もの愛人を取り替え、男女問わず、好みもコロコロ変わるという。

今、彼は色っぽい目つきで森川萤子の露出した細い脚を見つめながら褒めそやした。「甥っ子よ、君は秘書を選ぶ目がいいな。君の叔父さんが紹介した秘書を気に入らなかったのも納得だ。彼女たちは森川秘書と比べると、はるかに劣るよ」

片桐陽向は顎を引き締め、不快感を露わにして言った。「神崎社長も負けていませんね」

神崎社長は彼の皮肉めいた口調を察し、大笑いした。「陽向、君はまだ若いから、秘書がどれほど面白いか分からないんだよ」

片桐陽向の表情は見る見るうちに暗くなった。「神崎社長がどう秘書を定義しているのか知りませんが、私にとって彼女たちは尊重されるべき存在です」

「つまり君はまだ手を出していないのか?」神崎社長は残念そうに首を振った。「バカな若者だ。秘書は便利なものなのに」

片桐陽向の体側に垂れた手は拳を固く握り、目には怒りの火花が宿った。神崎社長がさらに不快な言葉で彼を挑発しようとした時、江川源が機転を利かせて駆け寄ってきた。

「片桐社長、神崎社長、従業員たちが全員揃いました。お二人から何か一言いただけませんか?」

片桐陽向は冷たい表情で黙っていた。

神崎社長は彼の青ざめた顔を一瞥し、自らマイクを取った。「私が形式上の挨拶をしよう」

神崎社長が去ると、江川源は声を低くして言った。「片桐社長、自制してください。森川秘書のために神崎社長と公の場で争えば、彼女を火の上に載せることになります」

片桐陽向の握りしめた拳はさらに強く締まり、突然力が抜けたように緩んだ。

江川源の言うとおりだった。今日彼が怒りを抑えきれずに神崎社長を殴れば、皆は森川萤子が彼の弱点だと知ることになる。

卑劣な人間というのは、弱点を知ると執拗に突いてくるものだ。彼が森川萤子を巻き込みたくなければ、自制するしかなかった。

江川源は彼の周囲に爆発しそうだった怒りが一瞬で完全に収まるのを感じ、片桐陽向の自制心に感嘆した。

「今日は江川淮に森川萤子を見張らせてくれ」片桐陽向は演説中の神崎社長を見つめながら言った。