個室内:
黒田真一は周りを気にせず優雅に西村绘里の唇の端を拭いていた。男の冷たく硬い気配が迫り、西村绘里は針のむしろに座るような落ち着かなさを感じ、一瞬にして酔いが半分覚めた。
しかし意識はあるものの、頭の中はぼんやりとして、体にもあまり力が入らない。このように男の腕の中に寄り添っていると、少し女らしい色気が漂っていた。
「あの、黒田社長、私自分でできます」
西村绘里は数杯の赤ワインを飲み、小さな顔は少し赤らんでおり、思わず二度見してしまうほどだった。
「これは男がすべきことだ。私がやる」
西村绘里:「……」
この言葉が出た途端、西村绘里の隣で彼女を狙っていた佐藤社長の顔色が変わった。この西村绘里と黒田真一のこのような親密な仕草を見れば、目の利く人なら一目で何かあると分かるだろう。
だから自分が連れてきた二人の秘書が、あれこれと黒田真一に近づこうと誘惑しても何の成果もなかったのだ。
元々黒田真一の側にはこのような百合の花のような女性がいたのだ。艶やかで清純で愛らしい。
男というものは、このような女性を独り占めにして、自ら調教したいと思うものだ。
口に入りかけていた新鮮な肉をこうして奪われてしまったが、相手が黒田真一であるため、佐藤社長は歯を噛み砕いて腹の中に飲み込むしかなかった。
「西村さん、黒田社長のような部下に気配りのできる社長に出会えるなんて、本当に幸運ですね」
黒田真一は、女性に近づかず、笑わず、測り知れない人物だった。
外では彼が既婚者だという噂もあり、とにかく極めて潔癖な男で、この男は誰もが憧れるが手の届かない存在だった。
西村绘里はぼんやりとして、酔いが残る中、頷いて相槌を打った。
「黒田社長は、いい人です……お金もくれました、丸々100万円も」
当初、もし黒田真一が自分と3年間の婚約を結び、100万円をくれなかったら、おそらく自分は路上で飢え死にし、退学させられ、西村安国も訴えられていただろう。
それに甘奈の医療費も……
公平に言えば、3年間の婚約とはいえ、男が自分と結婚したのは株式のためだったが、それでも男が与えてくれた100万円の報酬には感謝している。
黒田真一:「……」
西村绘里は酔っていた。
黒田真一は眉をひそめ、大きな手で目立たないように西村绘里を抱き寄せた。