社長室内:
黒田真一に向き合っているため、西村絵里は緊張して心臓の鼓動が速くなった。今この瞬間、冷静を装い、気迫だけは負けないようにした。
絶対に黒田真一に振り回されてはいけない。今日起こりうる状況を予想して、あらかじめ二つの弁当を用意していた。
黒田真一が立ち上がり、長身で迫ってきた。西村絵里はほとんど自分の鼻先が男性の胸に触れるのを感じ、妖艶な気配が押し寄せてきた。
西村絵里が手に持っている花柄のお弁当箱は非常に清潔で、見ていると心地よい感覚があった。彼女の作った料理と同様に、家庭的な雰囲気を醸し出していた。
「値段を聞かせてくれ」
男性の深い海のような黒い瞳を見上げ、西村絵里はごくりと唾を飲み込み、口元に薄い笑みを浮かべた。
「様々な消費者層に対応するため、この二つのお弁当の価格も異なります。こちらは肉料理二品と野菜料理一品で、社内価格で250円にしておきましょう。この価格は文字通りの意味ではなく、肉料理が100円、野菜料理が50円、ご飯は無料なので、250円です」
遠回しな侮辱は西村絵里の戦略だった。黒田真一は口元を引き締め、西村絵里が続けるのを聞いた。
「こちらは肉料理一品と野菜料理二品で、価格はやや安めです。買うなら上司価格で38円にしておきます」
「両方買ったらどうなる?」
「それは素晴らしいですね。両方買うなら半額にします。私はお昼に自分用にクッキーを持ってきたので、お弁当を食べなくても大丈夫です」
そう言いながら、西村絵里は口元に甘い笑みを浮かべた。
「黒田社長、ご検討ください。一つを選ぶか、両方買うか。あなたは社長なのですから、デザイン部の小さな社員である私をいじめるようなことはないでしょう。タダで食べるのもあなたの品格に合わないでしょうし、明確な料金で割引するのが、社員として心遣いというものです」
黒田真一は目を細め、口元に妖艶な笑みを浮かべた。
この西村絵里は、確かに羊の皮を被った狼だ。無害を装いながら、実は小さなハリネズミのようだ。
「そうかな?私にはタダで食べられる正当な理由があると思うが...」
「何ですって?」
西村絵里は少し信じられない様子だった。自分が全ての道を塞いだはずなのに、強硬策も柔軟策も使ったのに、黒田真一は何か抜け道でもあるというのか?