トーテムホール内:
唇に温かい感触が伝わり、西村絵里は体が硬直した。黒田真一がこんなことをするとは思ってもみなかった。
男の支配的な気配が彼女の唇と歯の間に広がり、二人の息が絡み合い、乱れた。
しばらくして、男は舌先で彼女の口角をなぞり、そこに残ったワインの跡をなめ取り、名残惜しそうに離れた。
「これでいい」
魅惑的な赤い唇、口角のワインの跡はすでにキスで消えていた。
周囲の人々はため息をついた。これは明らかに愛情表現だった。
西村絵里:「……」
即興の演出?
ふん……
西村絵里の頭の中には、男がメイクアップアーティストに口紅が嫌いだと言っていた場面が浮かんだ。もしかして、黒田真一は最初から計画していたのだろうか?
西村絵里は小さな手を握りしめ、周囲の人々の前であることを考慮して怒りを抑えた。