トーテムホール内:
唇に温かい感触が伝わり、西村絵里は体が硬直した。黒田真一がこんなことをするとは思ってもみなかった。
男の支配的な気配が彼女の唇と歯の間に広がり、二人の息が絡み合い、乱れた。
しばらくして、男は舌先で彼女の口角をなぞり、そこに残ったワインの跡をなめ取り、名残惜しそうに離れた。
「これでいい」
魅惑的な赤い唇、口角のワインの跡はすでにキスで消えていた。
周囲の人々はため息をついた。これは明らかに愛情表現だった。
西村絵里:「……」
即興の演出?
ふん……
西村絵里の頭の中には、男がメイクアップアーティストに口紅が嫌いだと言っていた場面が浮かんだ。もしかして、黒田真一は最初から計画していたのだろうか?
西村絵里は小さな手を握りしめ、周囲の人々の前であることを考慮して怒りを抑えた。
黒田真一は満足げに口角を上げ、細長い黒い瞳を少し細め、深い海のような光を宿していた。
司会者は一瞬遅れて反応し、結婚2年目でもまだこんなに情熱的だとは思わなかった。そして言った:「黒田社長と黒田奥さんの仲の良さが伝わってきますね。先ほど黒田奥さんの口角にワインの跡があり、黒田さんはそれを直接キスで取り除かれました」
司会者の説明を聞いて、皆は納得した様子だった。なるほど。
拍手が起こった。この時代に、こんなに細やかな気配りができる男性は本当に珍しい。
特にその男性が仙台市のトップで、絶大な権力を持つ人物であることを考えると。
西村絵里は小さな手で目立たないように自分の唇を拭った。拭けば拭くほど赤くなり、むしろ潤いのある魅惑的な唇になり、人々の想像をかき立てた。女性のその動きを見逃さなかった黒田真一の瞳は一層深みを増した。
黒田真一の大きな手は相変わらず支配的に西村絵里の細い腰に置かれ、彼女を自分の胸に引き寄せた。
熱いキスのエピソードの後、司会者は言った:「次は黒田社長と黒田奥さんのために用意した即興のインタラクティブセッションです」
西村絵里:「……」
男性の大きな手が自分の腰に力を入れているため、西村絵里は口角に薄い笑みを浮かべ、承諾の意を示した。
「最初の質問は黒田奥さんへです。黒田社長の趣味は何ですか?」
この質問に、西村絵里は本当に困惑した。黒田という腹黒い男の趣味など、自分がどうして知っているだろうか?