第61章 甘い雰囲気 ブックマークをお願いします(1)

トーテムの洗面所の入り口の廊下:

西村絵里は黒田真一の鋭い言葉を聞いて顔色を変え、震える声で言った。「国豪は黒田グループの提携先なのよ……」

「知っている」

西村絵里:「……」

知っていてもこんなに強気?

西村絵里は先ほどまで色欲に目がくらんでいた村上社長が、今や誰かに非常に惨めな姿で引きずられるように去っていくのを見つめた。彼女は目尻の涙がまだ乾ききらないまま、鼻をすすり、小さな声で注意した。

「私が国豪の契約を取ったら、1万円のボーナスがもらえるのよ……あなたがこんなことをしたら、国豪との契約もなくなって、私のボーナスはどうなるの?このデザイン案のために、私は一週間も頑張ったのに」

そのボーナスを貯金して、将来の不時の出費に備えるつもりだったのに。

黒田真一:「……」

黒田真一は西村絵里の言葉に口角を少し引きつらせた。

西村絵里……

ボーナス?

こんな時に、西村絵里はまだそんなことを考えているのか?

黒田真一はすぐに顔を曇らせた。

「西村絵里、少しは出世したいと思わないのか?」

西村絵里:「……」

出世?

自分だって出世したいけど、仕方ない、そもそも自分にはその素質がないんだから……

初恋の人に会って悲しむ一方で生計のことも心配しなければならず、先ほど職場の上司に策略にはめられ、目の前のこの男は自分の夫であり、また上司でもある。すべてを打ち明けることなどできるはずがない。

西村絵里は慌てて小さな手で目尻の涙を拭き取ったが、泣き止むどころかますます激しく泣き出してしまった。

「出世なんて、とっくに諦めたわ。黒田真一、森田社長は最低だけど、あなたも良い人じゃない。あなたこそ世界一の大バカよ」

そう言いながら、西村絵里は思わず小さな手で目の前の男の胸を叩いた。

「男ってみんな最低……あなたはいつも私をいじめて、私に料理を作らせて食べるくせに。だから矢崎凌空が私にいちいち難癖をつけるのよ。結局、あなたこそが元凶なんだから」

黒田真一は目を細め、大体の事情を理解した。

黒田グループのデザイン案が選ばれ、承認されるためには、矢崎凌空という主任が必ず目を通さなければならず、接待にも必ず出席する必要がある。今や西村絵里一人が森田社長と駆け引きしている状況は、その深い意味を考えると背筋が寒くなる。