堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

口元に淡い笑みを浮かべながら、テーブルの下で小さな手を伸ばして黒田真一の服の裾を引っ張った。


黒田真一は黒い瞳を微かに輝かせ、振り向くと西村绘里の愛らしい目が彼に取り入ろうとしているのを見て、胸の怒りが少し和らいだ。そして大きな手を上げて西村绘里の頬を優しく撫でた。


西村绘里はそれを見てほっと一息つき、その後藤原海翔を強く睨みつけた。


普段は自分の前では不真面目な態度を取っているのに、今はお爺様と黒田真一の前では少しは慎むべきだ。


藤原お爺様は西村绘里が意図的に場を和ませようとしているのを見て取り、ずっと張り詰めていた心の糸を少し緩めた。


「食事を……黒田奥さん、もっと食べなさい。」


「はい、ありがとうございます、お爺様。」


第179章 夜は同じ部屋に泊まる1更(4)

第179章夜は同じ部屋に泊まる1更(4)