堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

西村絵里はしばらくして、口元に微かな笑みを浮かべた。


「私はこれでいいと思うわ。わざわざ傷跡を消す機会を作る必要はないわ」


西村絵里は口元に薄い笑みを浮かべていたが、心臓は激しく鼓動していた。


小さな手をきつく握りしめて……


病院に行けば、当然傷跡がどのような状況で出来たのか聞かれる。


これは明らかに帝王切開の跡……


もし盲腸だと説明したら……


結局、病院の医師たちは専門家だから、科学的な観点から見れば、この盲腸炎の切開口は、帝王切開の手術痕と、傷跡の大きさや方向が明らかに違う。


黒田真一は黒い瞳を細め、西村絵里の焦った様子を見つめ、薄い唇がかすかに上がり、西村絵里の柔らかく白い顔に視線を定めて言った。


第298章 お前は俺、黒田真一の妻だ2更(1)

第298章お前は俺、黒田真一の妻だ2更(1)