堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

黒田真一のこの言葉は一体どういう意味なのだろう……


グループの三人は、元々甘奈を抱きしめて写真を撮ろうとしていたが、黒田真一がそう言うのを聞いて、すぐに手を引っ込めた。


黒田真一は満足げに口角を上げた。


そう言って、黒田真一は少し離れたところにいる子会社の社長を見て、手招きした。


「プロのカメラマンを手配して写真を撮らせろ」


社長は「黒田社長」という言葉を口にする勇気もなく、おどおどしながらすぐに人を派遣してカメラマンを呼んできた。


背景はボーイのコンサート打ち上げパーティー……


ボーイもかなり驚いていた……


この男は一体何者なんだ、社長に対して直接指示を出すことができるなんて。


しかも社長はペコペコと頭を下げている。


この男は、底が知れないな。


甘奈のパパは大物なんだな。


甘奈はまさか自分がアイドルと一緒に写真を撮れる日が来るとは思っていなかった。興奮して仕方がない。


それでも足りないと思ったのか、甘奈は興奮して西村絵里の手を引っ張り、一緒にボーイと写真を撮った。


黒田真一は唇を引き締め、鋭い視線で常に監視していた……あまりに親密な動きがないかどうかを。


今のところ……悪くはなさそうだ……


甘奈はボーイとの写真撮影に満足し、興奮冷めやらぬ様子で黒田真一を見ると、思わず言った：「パパ……今、幸せすぎて爆発しそう」


黒田真一は薄い唇を少し上げ、その言葉を聞いて小さな女の子を抱きしめた。


甘奈は黒田真一の頬に顔を近づけて、思い切りキスをした。


以前は甘奈がこんなに力強く自分にキスするのを見たことがなかった。


今、黒田真一にキスするときは……


西村絵里は口角を引きつらせた。なぜ……自分は黒田真一に会うたびに、甘奈が彼に奪われてしまうのではないかと特に心配してしまうのだろう。


たぶん……黒田真一も名目上は甘奈の父親だからだろう。


そう考えて、西村絵里は自分の感情を落ち着かせた。


黒田真一が甘奈の面倒を見ているおかげで、甘奈は終始とても尊重され、まさにお姫様のような扱いを受けていた。


第336章 黒田奥様は黒田さんの家に帰りたい1更(9)

第336章黒田奥様は黒田さんの家に帰りたい1更(9)