西村絵里と黒田真一が甘奈を抱いて車内に座った時。
甘奈は思わず褒め言葉を口にした。「ママ……さっきすごくかっこよかったよ。あのお風呂に入ってないおばさんをきつく叱ったね」
「うん、ママは私のアイドルだよ……」
小さな女の子がそう言うのを聞いて、西村絵里は思わず尋ねた。「そう?じゃあ私とボーイ、どっちが好き?」
「それは……」
甘奈は悩んでしまった。
西村絵里:「……」
小さな女の子の愛は、本当にちょっとした試練にも耐えられないものだね。
西村絵里は思わず笑い、仕方なく唇の端を上げ、小さな手を伸ばして小さな女の子の髪を撫でながら、優しく言った。「もういいよ……甘奈ちゃん、ママがひとつ言っておきたいことがあるの」
「うん」
「ね、私たちは適当におばさんがお風呂に入ってないとか、そういうことを言っちゃいけないの。失礼だからね、わかった?」
教えるべきことは、やはり教えなければならない。
けじめはつけないと。
「わかったよ……ママ、でももしママをいじめる人に会ったらどうすればいいの?」
「簡単よ……そのまま言えばいいの。おばさん、次お腹が空いたら、私がご飯をおごるから、トイレで食べなくていいですよって」
甘奈:「……」
甘奈は混乱した。
黒田真一は西村絵里の言葉に、薄い唇がかすかに上がった。
やはり牙をむく小さなハリネズミだ。
西村絵里は、絶対に自分が損をすることはない。
うん、この子のそういう性格は本当に良い……
もっとも、多くの場合、西村絵里が牙をむく相手は自分なのだが。
さっき……西村絵里が井上莉菜を言い負かした時は、思わず目を見張ってしまった。
……
黒田真一は赤ワインを飲んでいたが、運転には影響がなかったので、西村絵里も特に止めなかった。
美しい瞳が揺れ、さっき黒田真一は井上莉菜の前で自分を必死に守ってくれた。
西村絵里は口元を緩め、誰かに守られる感覚は、本当に悪くない。
「黒田真一……まずマンションに行きましょう。私と甘奈はちょっと荷物を取りに行くから」
「ああ、お前が取りに行け。甘奈は車の中にいる」
天子を挟んで諸侯に命じる。
甘奈が車の中にいれば、黒田真一は西村絵里が戻ってこないことを少しも心配していない。
西村絵里:「……」
黒田真一は、今や本当に十分だ。