藤原氏:
昼食の時間、藤原景裕はデスクの上の弁当箱を取り出し、薄い唇を引き締めた。
初めて会社に弁当を持ってきた。
それも昨夜の残り物だ。
そう、主にボスの口から奪い取った食事だ。
忘れてはいない、昨日牛肉チャーハンを弁当箱に入れた時のボスの恨めしそうな眼差しを。
……
藤原景裕は立ち上がり、弁当箱を持って給湯室の方向へ歩いていった。
藤原景裕が自ら食事を温めるのは、これが初めてだった。
最上階の秘書たちは目を丸くして、おずおずと挨拶した。
「藤原社長、こんにちは」
「ああ」
秘書たちは感慨深げだった。ごく普通の食事を温めるという行為なのに、藤原景裕がやると何故かとても気品があり、他の男性たちの居場所がなくなるほどだった。
安藤萱子は昼食時からずっと藤原景裕の様子を盗み見ていたが、彼が給湯室へ向かって自ら食事を温めるのを見て、表情が微かに変わり、その後瞳に深い思考の色が浮かんだ。
……
社長室:
藤原景裕はオフィスに戻ると、素早く弁当箱を開けた。
牛肉チャーハンの香りが鼻をくすぐり、非常に良い香りがした。
一晩経っていて、見た目はあまり良くなかったが……
それでも藤原景裕は食欲をそそられた。
何と言っても村上念美が作ったものだから。
藤原景裕は薄い唇を緩め、箸を取ろうとした時、オフィスのドアがノックされた。
「どうぞ」
藤原景裕の声は冷たく、いつものようにきっぱりとしていた。安藤萱子が洗練された保温弁当箱を手に持ってオフィスに入ってきた。
「藤原さん、実は昨日、あなたと奥様が私を家まで送ってくださったことを両親がとても感謝していて、特別にお昼ご飯を作ってきました。それと、奥様のために少しお菓子も作りました」
安藤萱子は絶妙な社交辞令を述べ、自分の目的を露骨に藤原景裕に押し付けることはしなかった。
そして積極的に村上念美のことを「奥様」と呼び……
自分を忠実な部下として位置づけた。
藤原景裕はそれを聞いて眉をひそめたが、安藤萱子はすでに手に持っていた保温弁当箱を開けていた。
「母の料理はとても美味しいんですよ。朝から一生懸命作っていました。ぜひ召し上がってみてください。奥様がお菓子をお好きでしたら、また作りますよ」
洗練された保温弁当箱が開けられ、中には様々な料理が……
色、香り、味すべてが揃っていた。