堇顔

　藤原景裕と村上家の三女・念美は、誰もが知る幼なじみ。
　彼は幼い頃から彼女を溺愛し、婚約に至るのも当然の流れだった――はずが、念美は突然その婚約を破棄し、別の男性のもとへ海外へと旅立ってしまう。
　それから三年。
　念美が再び日本に戻ってきたとき、彼女はなんと藤原に「結婚して」と迫る。
　世間は騒然、「あの女はすぐに捨てられるに違いない」と噂が飛び交う。
　だが誰も知らなかった。藤原景裕がずっと前からすべてを仕組み、綿密に張り巡らせた罠によって彼女を呼び戻し、迎え入れ、そして――一生のぬくもりを与えると決めていたことを。

✦ 主人公同士は心も身体もピュアな1対1！
✦ 強い女×強い男、浮気もクズも一切ナシ！
✦ ドロドロや無理な虐待描写ナシ！
✦ ひたすら甘くて深い、極上の溺愛ラブストーリー！

愛は策略の中に

「うん、まだ救急室にいるよ。」


藤原景裕の声は低く、眉間には疲れが隠せなかった。村上念美はそれを見て小さな手を伸ばし、男の顰めた眉をなでた。


この熊谷紗奈は、わざとやったのだと。


みんなの同情心を利用して、形勢を逆転させようとしていると。


もし藤原景裕が真実を知ったらどうなるだろう？


村上念美は言いかけて止め、木下警官がそれを見て口を開こうとした。


「あの...藤原大旦那様、熊谷大旦那様...」


木下警官が言い終わる前に、村上念美は自ら口を開いた：「木下警官、救命結果が出てからにしましょう。」


もしかしたら...熊谷紗奈の出血状況からすると、彼女はこの救急室で廃人になるかもしれない。


そうなれば、これらの話はもう意味をなさなくなる。


木下警官は村上念美の言葉を聞き、彼女の心配と大局を見る目を理解し、頷いた。


救急室の外で、最も心を痛めていたのは熊谷徹朗と渡辺愛美だった。


長年育ててきた娘が、今この瞬間、病院で救命中、生死不明。


渡辺愛美は目尻の涙を拭いながら、震える声で言った：「熊谷、私は彼女が一生刑務所にいることになるかもしれないと思っていた。私が死んだ後も、彼女はまだ刑務所にいるだろうと。私の晩年に、この唯一の娘が側にいないなんて。でも...私は、ある日、白髪の親が黒髪の子を見送ることになるとは思ってもみなかった。」


熊谷徹朗はその言葉を聞いて胸が痛んだ。自分も同じ気持ちだった。


「紗奈は小さい頃から強情だった！彼女は...本当に極端な道を選んでしまった。刑務所でのこんな生活に耐えられなかったんだ。」


「これは全て私のせいだ...全て私の過ちだ。」


渡辺愛美は熊谷徹朗の目が赤くなっているのを見て、静かに言った：「熊谷、今は彼女が無事に生きていてくれるだけでいい。他のことは、もう望むことさえ恐れている。」


「うん。」熊谷徹朗は自ら大きな手を伸ばして渡辺愛美の背中をなで、目には深い悲しみが満ちていた。


村上念美と相馬紗奈は視線を交わし、言葉にしなくても全てが通じ合った。


相馬紗奈は目の前の熊谷徹朗と渡辺愛美の真情の表れに心を動かされた。


おそらく、親が自分の子供を愛する姿は、みなこのようなものなのだろう。


120 熊谷紗奈は実の娘ではない【1更新求む】_3