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病院の入り口にあるカフェ。
村上念美がカフェに着いたとき、角の席に座っている笹木愉伊の姿が目に入った。柔らかな白いパーカーの下にはぴったりとしたジーンズを履き、瞳は暗く沈んでいた。
機嫌はあまり良くないようだ...女性の寄せられた眉は、何かを考えているか、悩んでいる様子を明らかに示していた。
村上念美は自ら近づき、優しく声をかけた。「何か食べるものを注文した?もうお昼だよ」
「まだよ、何か食べたいものある?」
笹木愉伊は遠くを見ていた視線を戻し、淡く微笑んだ。声は相変わらず水のように優しかった。
「ごめんなさい、さっきぼんやりしてて...」
実際...通常なら、適切な環境であれば、相手が10メートル先から自分に向かって歩いてくるだけで、その位置を正確に判断できるはずだった。
でも今さっきは自分の気が散っていたせいで、村上念美が近づいてきたことにまったく気づかなかった。
笹木愉伊は心の中で自分を責めた。除隊してから。
体の敏感さが鈍くなっただけでなく。
自分の反応速度も遅くなっていた。
「大丈夫よ...ランチにしましょう」
そう言って、村上念美は自らウェイターを呼び、ランチセットを注文し、メニューを笹木愉伊に渡した。
笹木愉伊は食欲がなく、アイスコーヒーだけを注文した。
村上念美は簡単に数口食べると、静かに尋ねた。「私を呼んだのは、何か用事?」
「うん、午後の時間に文音を見ていてほしいの、いい?私が言いたいのは、ずっとそばにいてほしいってこと...」
村上念美:「...」
笹木愉伊が文音を自分に任せるなんて、これはどれほどの信頼だろう。
ただ、以前は女性の自分に対する態度は疎遠だった。
突然こんなに大きな変化があるなんて、村上念美はいささか驚いていた。
「もし...都合が悪かったら、いいわ」
「大丈夫よ...ちょうど最近、学校からの返事を待っているところだから、時間はあるわ」
村上念美は普段、文音のそばには笹木愉伊という親族が一人しかいないことを知っていた。笹木愉伊が本当に手が離せない時だけ、自分に助けを求めるのだろう。
藤原景裕の顔を立てるためにも...そして既に亡くなった笹木静香のためにも、それに自分がこの母娘を本当に好きだということもあって、当然のことだった。
「わかったわ、よろしくお願いします」