第49章 見える場所(9)

彼女は最底辺で必死にもがいていた。一方、千歌は本来彼女のものだったすべてを利用して、頂点に立ち、順風満帆な生活を送っていた。これをどうして痛ましく思わないことがあろうか?どうして恨まないことがあろうか?

「本当にあなたなのね、記憶ちゃん」森川記憶が短時間で様々な思いに駆られる変化を見せる一方で、千歌の感情はずっと落ち着いていた。「さっきは人違いかと思ったわ」

千歌はそう言いながら、後ろについてきた二人の若いアシスタントに目配せをして、先に行くよう指示した。

廊下に千歌と森川記憶の二人だけが残ると、千歌はハイヒールを履いた足で、優雅な姿勢で歩み寄ってきた。

彼女は森川記憶を上から下まで眺め回してから、ようやく笑顔を見せて口を開いた。「久しぶりね、記憶ちゃん」

ある事柄について、彼女たち二人はお互いに心の中では分かっていた。しかし、それを表面化させる前は、千歌が保っている余裕と優雅さを、森川記憶も同じように保つことができた。

そう思いながら、森川記憶は瞬きをして、自分の意識を過去の出来事から引き戻した。彼女は唇の端を少し上げ、甘くて美しい微笑みを浮かべ、穏やかな口調で返した。「そうね、しばらく会わなかったわね」

千歌は森川記憶が笑うのを見て、自分の顔にも一層明るい笑顔を浮かべた。「記憶ちゃん、いつ目覚めたの?ネットでも知っているでしょうけど、私はこの2年間とても忙しくて、仕事の予定がびっしりで、だから他のことに気を配る時間があまりなかったのよ」

森川記憶はもちろん、千歌が意図的に「仕事の予定」という言葉を強調したことに気づいた。彼女はこれが自分に対する自慢であり、彼女を動揺させようとしていることも理解していた。森川記憶は少し目を伏せたが、顔の笑みは消えず、まるで千歌の暗示に気づかないかのように、先ほどと同じ口調で答えた。「目覚めて半年くらいよ」

「そう…」千歌はおそらく自分の拳が綿を打つように、まったく波紋を起こせないことに気づいたのだろう。少し投げやりな調子で一言応じてから、横を向いて森川記憶の隣のドアを見て、何気なく尋ねた。「伊藤芸を探しに来たの?橋本監督の新しい映画のため?」

森川記憶は唇を少し上げ、率直に認めた。「そうよ」