井上ママは閉ざされたドアを見つめ、ため息をついた。振り返って二階を見上げ、また一つため息をついた。彼女はまず台所へ行き、まだ煮えているお粥の火を消し、それからお茶を一杯淹れ、高橋さんに状況を報告するために二階へ持っていこうとしたところで、ドアベルが鳴った。
井上ママは急いでドアへ駆け寄り、開けると、戻ってきた森川記憶の姿があった。彼女の顔にはすぐに笑みが浮かんだ。「お嬢様...」
彼女が二文字だけ呼びかけると、森川記憶は封筒を井上ママの前に差し出した。「井上ママ、この封筒を高橋さんにお渡しいただけますか。ありがとうございます」
言い終えると、森川記憶は井上ママに微笑みながら丁寧に「さようなら」と言い、エレベーターに乗って再び去っていった。
井上ママはエレベーターの階数表示が「1」になるまで待ってからドアを閉め、階段へ向かった。数歩歩いたところで、二階の手すりに誰かが立っていることに気づき、彼女は突然足を止め、顔を上げて声をかけた。「高橋さん」