第145章 彼について、彼女が知らない物語(5)

森川記憶は声を聞いて振り向くと、髙橋綾人が携帯を持ちながら一歩一歩階段を上り、二階の曲がり角で姿を消すのを見た。

二階の書斎のドアが閉まると、井上ママはにこやかに言った。「お嬢さん、お腹が空いたでしょう?何か食べるものをご用意しますね。」

そう言いながら、井上ママはダイニングの方向に手を伸ばし、案内するジェスチャーをした。

彼女と髙橋綾人の過去がどうであれ、昨夜は彼が助けてくれたのだから、礼儀として彼の仕事が終わるのを待って、別れの挨拶をしてから帰るべきだろう...森川記憶はそう考え、井上ママに微笑みながら「はい」と答えた。「ご迷惑をおかけします。」

ダイニングに入ると、井上ママはまず森川記憶のために椅子を引き、彼女が座ってから台所に行き、様々な朝食を運んできた。