第247章 よく考えてから答えて(7)

佐藤未来は髙橋綾人が近づいてきたことに気づいたが、表情を変えずにベッドの端に座り、相変わらず真剣に森川記憶の傷の手当てを続けていた。

逆に森川記憶は、反射的に髙橋綾人の方を見た。彼の表情に目が触れた瞬間、彼女は突然動きを止めた。

男の顔色は、いつの間にか青ざめていて、彼の顔には混乱と狂気が満ちていた。

彼が佐藤未来の手の中の針を見つめる目は、鋭く冷たく、まるで血で血を洗う仇敵のようだった。

この、いつも冷静で感情を顔に出さない男が、まさか、まさかこんなにも慌てふためいた表情を見せるなんて?

彼女はさっきまで、彼女を抱えて宮殿に入ってきた男が、すでにかなり普段と違う状態だと思っていたが、まさか彼にこんな狂気の瞬間があるとは。

しかも、この瞬間は、彼女のため...彼女のためだった。

森川記憶の心は、突然震え始めた。

佐藤未来の指先の針が、再び彼女の肉に刺さり、痛みで森川記憶は本能的に眉間にしわを寄せたが、彼女の思考は依然として髙橋綾人に向けられていた。

彼女が眉をひそめるのをはっきりと捉えた髙橋綾人は、反射的に佐藤未来に手を伸ばし、彼女の手から針を奪おうとした。しかし、彼の指先がわずか一寸ほど伸びたところで、彼は無理やり拳を握り、強引に引っ込めた。

また一針刺されると、森川記憶は痛みで足が震えた。

髙橋綾人の体も一緒に急に緊張し、次の瞬間、彼は力強く拳を握り、振り返って宮殿から飛び出した。

宮殿のドアが強く閉まる音がするまで、森川記憶はようやく瞬きをして、遠くに飛んでいた思考を引き戻した。

彼女は宮殿の中を見回し、髙橋綾人がなぜ突然出て行ったのだろうと考えた。

この疑問が彼女の頭の中に留まったのはわずか3秒もなかった。彼女の脳内の映像は、再び髙橋綾人が彼女の前に駆け寄った時の、顔に浮かんだあの混乱した表情に戻った。

また心臓の鼓動が速くなり、森川記憶は今度は呼吸までもが落ち着かなくなった。

髙橋綾人は、彼女が見ていたほど彼女を嫌っていないのだろうか?

あるいは、彼の心の奥底では、彼女のことを少し気にかけているのだろうか?

結局、彼と彼女はかつてあんなに仲が良く、あんなに親しい友達だったのだから...

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