佐藤未来は髙橋綾人が近づいてきたことに気づいたが、表情を変えずにベッドの端に座り、相変わらず真剣に森川記憶の傷の手当てを続けていた。
逆に森川記憶は、反射的に髙橋綾人の方を見た。彼の表情に目が触れた瞬間、彼女は突然動きを止めた。
男の顔色は、いつの間にか青ざめていて、彼の顔には混乱と狂気が満ちていた。
彼が佐藤未来の手の中の針を見つめる目は、鋭く冷たく、まるで血で血を洗う仇敵のようだった。
この、いつも冷静で感情を顔に出さない男が、まさか、まさかこんなにも慌てふためいた表情を見せるなんて?
彼女はさっきまで、彼女を抱えて宮殿に入ってきた男が、すでにかなり普段と違う状態だと思っていたが、まさか彼にこんな狂気の瞬間があるとは。
しかも、この瞬間は、彼女のため...彼女のためだった。