第295章 撮影班の寵児(5)

森川記憶は激しく頭を振り、頭の中のすべての思考を振り払った。彼女は頭を空っぽにした状態を保ちながら、深呼吸を二回して、ベッドに戻り、目を閉じて、無理やり眠りにつこうとした。

しかし、彼女の頭が空白になってからそう長くないうちに、突然また髙橋綾人の言葉が浮かんできた。

「森川記憶、ごめん」

「あの件だけじゃなく、4年前のあの夜のことも」

彼女は思ってもみなかった。丸4年、約1300日もの間、彼女がこんな日を迎えるとは。髙橋綾人から「ごめん」という言葉を聞けるとは。4年前の彼と彼女の間の偶然の夜について、彼女の始まる前に終わってしまった初恋について……

心は、再び混乱に陥った。

森川記憶は目を開け、天井を見つめ、完全に眠れなくなった。

彼女の耳には、まるで魔法にかかったかのように、「森川記憶、ごめん」と「あの件だけじゃなく、4年前のあの夜のことも」という言葉が何度も繰り返し響いていた。

彼女は自分がこの二つの文をどれだけ幻聴として聞いたのか分からなかった。最後には、髙橋綾人の部屋で彼がこの言葉を言うのを聞いた時、受け入れたり許したりする気など全くなかった彼女の心の奥底で、徐々に揺らぎ始めていた。

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森川記憶の傷は、5日目にはほぼ治っていた。

7日目の夜、佐藤未来が彼女の部屋に来て、抜糸を手伝ってくれた。

8日目の朝、森川記憶は撮影現場に戻り、残りの撮影を続けた。

一週間ぶりに撮影現場に戻ると、森川記憶はあの騒動の後、自分の日々がもう以前のように辛くないことを知っていた。実際に撮影現場に戻ってみると、森川記憶は単に以前のように辛くないだけでなく、以前のように慎重に過ごしていた日々と比べると、まるで天と地ほどの違いがあることに気づいた。

朝7時、彼女は時間通りに撮影現場に到着した。以前のように化粧の順番を待つと思っていたが、化粧室に姿を現すとすぐに、メイクアップアーティストが彼女に近づいてきた。さらに、すでに化粧を半分済ませていた俳優たちまでもが、彼女に席を譲ろうと競い合っていた。

化粧の全過程を通じて、メイクアップアーティストの小さなアシスタントが時々彼女の前に現れては、水を持ってきたり、軽食を持ってきたりした。