第376章 彼と彼女の2回目（6）

思いもよらなかった、彼がこんなにも一字一句違わず覚えているなんて……

森川記憶の鈍い頭はまだ完全に理解していないうちに、背後から髙橋綾人の声が再び聞こえてきた。「君の前には100セットの口紅がある」

髙橋綾人の声はどんどん近づいてきて、森川記憶が気づいた時には、彼はすでに彼女の隣に立っていた。

彼女は本能的に顔を横に向けると、男性の完璧な横顔が彼女の視界に飛び込んできた。

彼は彼女が自分を見ていることを知っているかのように、目の前の壮観な口紅の山をまっすぐ見つめながら、慌てることなくゆっくりと口を開いた。「もし今、ごめんなさいと言ったら、君を不機嫌にさせてしまってごめん、と言ったら、気分は良くなるかな？」

森川記憶はアルコールの影響で頭がぼんやりしていたが、この言葉を聞いた瞬間に理解した。

彼は彼女が不機嫌になっていることを知っていて、彼女が以前言った方法で彼女をなだめようとしているのだ……

酔う前から酔いつぶれた後まで、ずっと抑圧されていた彼女の気分は一瞬で良くなった。さっきシャワーを浴びている時に、あれが彼の寝室のバスルームだと気づいて、夏目美咲がそこでシャワーを浴びたことを思い出し、なぜか感じた不快な感情も、すぐに消え去った。今では少し笑いたい気分さえあり、彼のなだめに心が温かく、甘く感じられた。

部屋の中が少しの間静かになった後、髙橋綾人は森川記憶が返事をするのを待たずに、ゆっくりと顔を向け、彼の横顔を見つめる彼女の目と向き合った。彼は彼女の目を見つめ、しばらく見た後、唇を動かし、真剣で誠実な口調で言った。「ごめんなさい」

シンプルな言葉だったが、森川記憶の心は小さく震え、その後、心の奥底から波紋が広がっていった。

「君を不機嫌にさせるべきじゃなかった」髙橋綾人はさらに言った。

森川記憶の心臓はドキドキと鼓動し始めた。彼女は自分がどうしてしまったのか分からなかったが、彼と目を合わせる勇気がなくなっていた。

彼女は慌てて視線をそらすと、様々な種類の口紅が突然彼女の目に入った。

彼女の動揺は収まるどころか、さらに強くなった。

彼女の呼吸は急になり、指先は思わず服をきつく掴んだ。

数秒後、彼の声が再び耳に入ってきた。「だから……」

彼女は反射的に声のする方を見て、彼の顔に視線を向けると、彼の目と正確に再び合ってしまった。