第460章 一夜で有名に（10）

しかし彼女は結局、冷たく見過ごすことができず、田中白に軽く頷いて「うん」と声を出した。

田中白はすぐに笑顔になった。「森川さん、本当にありがとうございます」

「森川さん、これらの薬を高橋社長に必ず飲ませてください……」田中白はベッドサイドテーブルに歩み寄り、先ほど置いた薬の袋から一枚の紙を取り出して森川記憶に渡した。「……これが服用方法です」

森川記憶は紙を受け取り、一目見て問題がないことを確認してから、田中白に再び頷いた。「わかりました」

「それから、森川さん、高橋社長が目を覚ましたら、必ず食事をとるようにさせてください……」彼はもともと、どうやって高橋社長に目覚めた後に食事をさせるか焦っていたが、今は森川さんがいるので心配はなさそうだった……田中白は森川記憶が髙橋綾人に言い負かされて諦めることを恐れ、さりげなく強い言葉を添えた。「……医者が言うには、正常な食事こそが一番大事で、点滴による栄養補給は一時的なものに過ぎません。もし彼が正常に食事をしなければ、どれだけ点滴をしても体は崩れてしまいます」

森川記憶：「安心してください、彼が食事をするよう見張っておきます」

田中白は森川記憶の保証を得て、やっと安心した。「では森川さん、私は会社の仕事に戻ります。何かあれば、いつでも連絡してください」

森川記憶はまず「はい」と答え、それから「わかりました」と言った。

森川記憶は田中白を病室の外まで見送り、田中白は去る直前にも「必ず高橋社長に食事をさせてください」と言い添えてから、森川記憶に別れを告げて立ち去った。

田中白の姿がエレベーターの前で消えると、森川記憶は病室に戻った。

彼女はまず髙橋綾人の点滴を確認し、液体がまだ十分にあり、手首に血が逆流していないことを確認してから、携帯電話を取り出して井上ママに電話をかけた。

彼女は朝早く、何も言わずに飛び出してきたので、井上ママを心配させていた。電話を受けた井上ママは「お嬢様」と何度も呼びかけ、やっと胸をなでおろした。「森川さん、よかった、お電話いただけて。もしあなたがこのまま行ってしまったら、高橋さんに問い詰められたとき、私はどうなることか……森川さん、今どこにいらっしゃいますか？運転手を迎えに行かせましょうか……」