第479章 出世する日なんて夢のまた夢(9)

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森川記憶は車椅子に座り、松本儀子に押されて病院を出たとき、すでに夜の6時半で、ちょうど帰宅ラッシュの時間帯だった。南町から北区へ向かう幹線道路は、渋滞でめちゃくちゃだった。

車は止まったり動いたりしながら約40分走り、道路がようやく少し混雑が緩和された。松本儀子がアクセルを踏もうとしたとき、彼女の携帯電話が鳴った。

車内はずっと静かだったので、突然の着信音に森川記憶は思わず振り向いて松本儀子を見た。

彼女は運転中の松本儀子が、まず携帯の画面をちらりと見て、それから頭を上げてバックミラー越しに自分を見たのを目撃した。彼女は視線を合わせず、ブルートゥースイヤホンを取り出して装着してから、画面をスライドさせて電話に出た。「林田部長、こんにちは」

松本儀子が言及した林田部長は、森川記憶が数日前にYC会社を訪れた際に会った人物で、YC会社のタレント部門を専門に担当している。