電話を切ると、髙橋綾人は携帯をポケットに放り込み、松本儀子の方を振り向いた。
髙橋綾人の視線に気づいた松本儀子は一瞬戸惑ったが、すぐに彼の意図を理解し、急いで気を利かせて言った。「急に思い出したんですが、他に用事があって。高橋社長、もしよろしければ、後で森川記憶を家まで送っていただけませんか?」
髙橋綾人は何も言わず、ただ軽く頷いただけだった。
松本儀子は髙橋綾人が承諾したのを見て、森川記憶の意見を聞くこともなく、自分が支えていた森川記憶の腕を髙橋綾人の手元へと差し出した。
髙橋綾人が手を伸ばして森川記憶の腕をつかむと、松本儀子はすぐに手を離し、一歩後ろに下がって「高橋社長、記憶さん、さようなら」と言うと、急いで車に乗り込み、去っていった。
松本儀子が運転する車が見えなくなってから、髙橋綾人は森川記憶を支えながら自分の車のところまで戻った。