「髙橋綾人、あなた知ってる?今夜のBLチャリティーディナーで、私がどれだけ上手く演技したか。私の人生で最高の演技力を、今夜全て発揮したと思うわ!」
髙橋綾人の唇の端が引き締まり、真正面の道路をじっと見つめながら、アクセルを踏み込んで車のスピードを上げた。
車の速度がどんどん上がっていることに全く気づいていない森川記憶は、まだ興奮して話し続けていた。
「でも、唯一残念だったのは目薬がなかったこと。泣くシーンでは、自分で自分の太ももをつねって、痛みで涙を出したのよ」
「そういえば、今でも太ももがズキズキ痛むわ。あの時は演技をリアルにすることだけ考えて、力加減を忘れてしまったから、青あざになってないといいけど...」
「青」という言葉を半分しか発音できないうちに、猛スピードで走っていた車が突然急ブレーキをかけ、大通りの真ん中に停止した。