森川記憶は声を聞いて、視線をカップ麺から髙橋綾人の顔に移した。彼が彼女の返事を待っていることは分かっていたが、彼女が口を開いたのも質問だった。「大晦日なのにカップ麺だけ?」
森川記憶がカップ麺に触れたので、髙橋綾人はようやく自分の質素な年越しの食事を思い出し、振り返ってカップ麺の蓋を閉め、片手で持ちながら先にオフィスへ向かった。
森川記憶は静かに後に続いた。
彼女が髙橋綾人のオフィスに一歩足を踏み入れた瞬間、ほとんど即座に退出しそうになった。
中はタバコの臭いがひどく、ソファーやテーブルの上には空のタバコの箱が散らかっていた。
デスクの上には書類が乱雑に散らばり、起動しているパソコンの横には灰皿があり、長さの異なる吸い殻でいっぱいだった。
髙橋綾人はカップ麺をテーブルに置くと、窓際に歩み寄り、窓を開けた。