「髙橋綾人がこのことを知ってから、旧正月の夜にあなたの事件が大騒ぎになるまで、彼には丸一週間の時間があったのよ。この件を押さえ込む方法を考えることができたはずなのに、でも知ってる?彼は何もしなかったわ……」
千歌は認めていた。自分はこれまでの人生で何をするにも冷酷だった。森川記憶という、若い頃の彼女にとって最も美しい存在でさえ容赦しなかった。唯一、髙橋綾人だけは別だった。彼女に対して決して良いとは言えない、むしろ悪いとさえ言える男に対して、幻想を抱いていた。
森川記憶が今スキャンダルに巻き込まれているのは、彼女の仕業だった。しかし、この件がここまで大きくなったのは、メディアの後押しなしではあり得なかった。彼女がメディアに連絡した時、誰かがこの件を髙橋綾人に漏らしたことを知っていた。その時、彼女は自分の計画が髙橋綾人によって阻止されるのではないかと心配していた。しかし後になって分かったのは、髙橋綾人はこの件の暴露を阻止するどころか、むしろ一役買っていたということだった。